夕張市破綻の歴史を読んでいたら、恐ろしくなりました…
こんにちは、すずきです。
「箱モノ行政」とは何か
箱モノ行政とは、一言で言うと「行政による、施設開発に頼ったまちづくり」です。
施設開発とは、すなわち建物を建てること。
市立博物館だとか、地域交流施設とか、図書館やテーマパークなどなど。
三井不動産や三菱地所のごとく、街にドカンと施設を開発して地域活性化に繋げようとする行政施策です。
この箱モノ行政、昭和の高度経済成長期の時代から今に至るまで、ずーっと取り組まれてきました。
ほら、あなたの街にもあるでしょう。新しくて立派な庁舎とか、良く分からん交流施設とか、公共機関が入居する再開発ビルとか。
こうやって僕がブログを更新している間にも、どこかの街で行政発注の再開発計画は進んでいます。長岡市とか。
ですが、この箱モノ行政、今ではニュースをつけると、良く批判されていますよね。
では、なぜ批判されてしまうのでしょうか。
箱モノ行政が批判される理由
箱モノ行政が批判されるのは、「失敗例がほとんど」という事に他なりません。
まず、ここでは「失敗とはどういうことか」について話します。
大前提として、箱モノの開発には大金が掛かります。
建物を建てるだけでも当然でかい金は動きますし、再開発なんてなおさら。
再開発計画を立て、お金を出して対象区画を地上げし、整地し、そこにでっかいビルを建てるのだから、そりゃあ相当な金額が必要です。
さらに、再開発地区というのは、概して地価が(ムダに)高い中心市街地がほとんど。
また、行政発注の場合、建設も地場のゼネコンに頼まざるを得ない事も多いため、競争原理が働かず、建築費も高くなる懸念が強い。
これじゃあ、お金が掛かるのは当然ですね。
で、もちろんこのお金をどこから捻出するのかと言うと、住民や国民の税金です。
だから、まず一つ箱モノ行政が批判される理由は、「大量の血税がつぎ込まれるから」ですね。
「俺が使わない関係ない施設に何億も使うなら、福祉とか雇用確保に力入れろ!」
なんて言う住民の声は、決して無視できる数では収まらないですからね。
しかし、箱モノ行政が批判されるべき本質的な理由がもう一つあります。
それは「ムダ遣いであることを否定できない」という事です。
これがどういう事かと言うと、「投資として失敗している」という意味ですね。
施設開発って言うのは、つまり不動産投資です。収益アパートを買うのと同じです。
開発費100億円で、年間想定収入が8億円なら、表面利回り8%。
費用をもろもろ差し引き、純利回りで5%だとしたら、単純計算で投資費用は20年で回収可能ですね。
この想定した収支が、開発主の投資基準を満たしていたら、開発にGOサインを出す訳です。
三井不動産も、三菱地所も、僕が前いた不動産会社も、みんな上記のような収支計算を、複雑なシートでめっちゃ計算して想定利回りを弾いています。
彼らは不動産投資をするのがビジネスなのだから、その想定利回りの正確さこそが肝なのです。
だからこそ、少しでも収益が多く立つ=賃料収入がより多く取れる、空室率の低い造り=市場価値のある物件を造る訳です。
しかし、行政主体の開発では、ここまでしっかり収支計算している例を見たことがありません。
というか、そもそも公共施設など、利益を上げるためではない施設もあります。
こうなると、当然ながら投資費用がキッチリ回収できるような施設開発・運営なんて出来やしません。
だって、投資に妥当な事業費がいくらなのかも分からず、損益分岐点も分からない、損益分岐点を超えるための戦略も立てられませんからね。
「そんなん言うたって、行政は金儲けが仕事じゃないんやで」
という声が職員から聞こえてきそうですが、その考えこそが、箱モノ行政が批判される原因。
開発費用の回収が出来ないという事は、つまり「税金のムダ遣い」になる訳ですからね。
単純に考えてみてください。
施設の開発費用の回収ができないという事は、施設からの収入が少ないという事です。
収入が少ないという事は、利用者が少ない、という事ですよね。
利用者が少ない施設って、つまり需要が無い訳です。
そんな「誰もろくに使わない」施設に何十億円なんて血税をかけたら、そりゃあ非難ごうごうですよ。
こんな箱モノ行政を積極的に推し進めて財政破綻したのが、あの夕張市です。
夕張は元々炭鉱町で、鉱山が閉山になってからは地域に産業が無くなり、物凄い勢いで衰退をしていった街です。
その状況を「何とかしなきゃ」と思って、当時の市長が推し進めたのが箱モノ行政。
誰も使わない変な施設を作りまくった挙句、市は何百億円という借金を背負うことになってしまったのです。
箱モノ行政にお金を使っている間、夕張市は財政危機のため、公共サービスを削りました。
税金は上がるし、公共サービスや施設の利用料金も上がるしで散々。
その結果、ますます市民の流出が加速し、衰退にダメ押しが掛かったのです。
夕張市の例はやや極端ですが、箱モノ行政失敗の典型例。
今までの歴史を見ると、その他の無数の自治体でも、箱モノ開発が成功に終わった事例なんてろくに聞きません。
ほとんどが「誰が使うのあの施設」ってな感じで、閑古鳥が鳴いていると聞きます。
尾鷲(&三重県)も例外ではなく、誰も使わないデカい施設や、収益を生まない施設の新設・改修に大金を掛けています。
今後も人口減少が見込まれる地域なのに、公共施設の規模やサービスの維持・拡大を考えるのは愚か。
ムダ遣いをかさませておいて「市はお金が無い」とか言われても、住民には失望しかありません。
かと言って、一度造った公共施設は廃止・解体するのも難しい。
集落の住民とか、ごく少数の施設利用者から批判やストップを受けてしまいますからね。
そのジレンマに陥ることで、各自治体はもはや致命的な状況に陥っているのです。
箱モノ行政、失敗の理由をまとめる
はい、ここまでで箱モノ行政がなぜ批判されるのか、良く分かったかと思います。
批判されるのは、今までのほとんどの事業が「事業として失敗している=血税のムダ遣い」であるという事実が存在するからですね。
箱モノ行政の失敗の理由とは、すなわち「きちんと収支を弾いておらず、投資回収が出来ない(そもそもその考えすら無い)」という事ですね。
収支にこだわらないから、開発費用が高くても分からない&収入が見込める程の価値を作りこめない、という事にも直結します。
だから、箱モノ行政は批判されるし、やるべきではないのです。
しかも、日本は既に人口減少社会に突入している。
今後長年にわたって徐々に施設需要が減っていくと予想される中で、新規に施設開発をするのはめちゃくちゃ難しいこと。
それをビジネスや不動産の素人である行政がやろうとする事自体、間違っているのですよ。
今後、行政がやるべきこと
以上を踏まえて、今後行政が箱モノ開発を考えるにあたって必要なのは、主に以下。
・きちんと収支計画を立て、せめて赤字運営にならない施設を作る
・と言っても、開発のプロじゃなきゃまず無理なので、実力のある民間事業者に頼るべき(PPP―PFI等を検討する)
・役所や出張所など、利益を生まない施設への投資は極力しない(そもそもの必要性と、必要最小限を考える)
決して「絶対に箱モノは作るな」という訳では無いのですが、必要最小限に留めるべきです。
ムダな施設開発が進むほど、建築費や維持費に税金が飛んで行って、公共サービスが低下しますから。
公共サービスが低下したら住民の満足度が下がって、みんな外へ出て行っちゃいますよ。
施設利用(商圏)人口の少ない田舎では、行政は新たな投資はせず、無駄な出費を極力抑える。
そして、商業やら観光やらは、民間の自由な競争のもとに任せて行けば良いと思いますよ。
行政は前に出ていくのではなく、民間事業者が活発に動けるよう、支援に注力すれば良いんです。
公共施設に投資する大金を、そのまま起業支援等に使った方が、街は活性化するんじゃないかと思うんですよね。
じゃあの。