あなたは、大家が大きく有利となる「定期借家契約」の仕組みをご存じですか?
言葉は聞いたことがある、という方は多いかもしれませんが、実際に定期借家契約を締結したり、定借物件に入居したりする経験を持つ方はあまり多くないでしょう。
定期借家契約は、借主に有利な普通借家契約に比べてかなり大家に有利な条件となります。
もちろん不動産投資を行うにあたっても、定期借家契約を利用するとより低いリスクで物件を運用できるのでメリットは大きいです。
ただ一方、デメリットも存在します。なので、まずは定期借家契約がどういうものかを簡単に理解した上で、そのメリットとデメリット、定期借家契約を結ぶべき場合について学んでおきましょう。
この記事で順番に解説していきますので、順番に見ていきましょう。
【もくじ】
定期借家契約とは
定期借家契約とは「賃借期間が決まっている借家契約」を指します。
契約期間を2年と定めた場合、しかし、通常締結する普通借家契約の場合は、契約期間が終了しても借主が望めば契約を更新できます。貸主は正当事由がなければ更新を拒絶できません。
対して定期借家契約では2年きっかりで賃貸借契約が終了し、借主は貸主に物件を明け渡さなければなりません。契約更新はできませんが、双方の合意による再契約は可能です。
つまり、定期借家契約は「契約満了したら退去してください」という形で、大家の権限が非常に強い契約形態なのです。
大家が定期借家契約を結ぶメリット
上記の通り、普通借家契約に比べて非常に大家の権限が強い定期借家契約。当然ですが、大家にとってのメリットは数多いです。
一つずつ見ていきましょう。
退去の期間をあらかじめ決められる
定期借家契約では、契約期間を明確に定めることで、あらかじめ入居者の退去日を大家側が指定することができます。
そのため、建て替えや売却など、大家側のプランに沿った入居管理ができるため、大家としては非常に扱いやすいのです。
普通借家契約の場合、ずっと契約を更新していつまでも入居し続ける賃借人もいるため、場合によってはこれがネックになる状況もありえます。
素行が悪く早く出ていってもらいたい入居者がいても、その人と定期借家契約を締結していたら安心ですね。確実に出ていってもらえるので。
契約更新も大家の意向で決められる
上述していますが、定期借家契約では、契約期間が終了しても借主の一方的な申出による契約更新はできません。
大家が再契約の意向を示さない限り、借主に延々借り続けられるという状況は無くなります(例外あり:後述)。
家賃滞納もなく素行も良いきちんとした入居者であれば再契約すれば良いし、そうでない入居者であればそのまま退去してもらえば良いのです。
途中解約に違約金を課すことも可能
普通借家契約では、契約の解約にあたっては「1ヶ月以上前に貸主に申し入れることで契約を解除できる」という特約条項が盛り込まれるのが普通です。
たとえ特約が無くても、借主は中途解約の申し入れを行うことが可能です。普通借は更新も解約も、借主が圧倒的に自由で権利が強いのです。
しかし、定期借家契約では「契約期間が決まっている=契約始期・終期が確定している」ため、借主は特約の定めに従わなければ解約の申し入れはできません。
定期借家契約では一般的に「中途解約は契約の残存期間分の賃料を支払うことで可能」という非常に大家が強い特約が盛り込まれます。
「2年間の貸し借りは決定してるんだから、1年で出ていっても残り1年分の賃料は貰うよ」という要求が可能になるので、賃料収入が大きく安定します。
※1年分を超える額など、不相当なほどの額の違約金請求を棄却された判例はあります。
賃料改定を特約で規制することも可能
また、賃料改定の協議についても特約で規制をすることが可能です。
普通借家契約では、借主・貸主の双方がいつでも賃料の増額・減額を要求することができ、賃料改定に関する特約は無効となります。
しかし、定期借家契約の場合は特約が有効になるので、借主が賃料減額要望を出せるチャンスを制限できるのです。
一般の住宅用物件ではあまり使わないでしょうが、店舗やオフィスなどBtoBの貸借では、賃借人の執拗な減賃要望を避ける条項が盛り込まれるのが普通です。
売上歩合賃料の場合、テナントに圧力がかかる
店舗テナントと賃貸借契約を結ぶ際、賃料を「月額〇万円」という形ではなく「月間売上の〇%」という形の売上歩合賃料に設定する場合があります。
商業ビルやショッピングセンターでは歩合賃料契約が多い傾向にありますね。
売上歩合賃料を設定している場合、定期借家契約はテナントに対して「売上頑張って上げてね」という強い圧力になります。
「売上が低い=賃料収入が安い」ということなので、大家(デベロッパー)はいくら店舗側が望んでも、そんなテナントに対して再契約を提示することはありませんからね。
鉄道系ショッピングセンターなど、立地が非常に良く大家側が強く出られる商業施設では、売上が悪いテナントを期中に立ち退かせる例も珍しくありません。
店舗テナントの歩合賃料契約には、定期借家契約はセットだと言っても過言ではありません。
定期借家契約によるデメリット
定期借家契約を結ぶことは、必ずしも大家にとってメリットだけをもたらす訳ではありません。
大家の立場が非常に強い契約ならではのデメリットもあるので、きちんと状況をわきまえながら賃貸条件を提示しなければいけませんよ。
入居者が確保しづらい⇒賃料減額の必要性
世の中には定期借家契約を全く理解していない人もいますが、少しでも知識を持っている人、物件を借りる際にしっかり調査する人も決して少なくありません。
そういう人は、定期借家契約が借主に不利な契約ということを理解しているので、検討の対象から除外される可能性もあります。
仮に同じ賃料で同じ物件の募集があった場合、普通借と定借で定借を選ぶ借主は存在しません。
ゆえに、普通借家契約より賃料を下げて募集しなければ、定期借家契約の客付けは少々難しいと言わざるを得ません。
定借をよく理解していない仲介業者の存在
これは非常に残念なことですが、中には定期借家契約をよく理解していない仲介業者も存在します。
そんな業者の場合、定借に必須の説明義務(後述)を怠ったり、最悪の場合「よく分かんないから普通借にしましょう」なんて言われることもあるようです。
確かに一般の賃貸住宅ではマイナーな契約形態なので触れる機会は少ないかもしれませんが…不動産のプロでしょあんたら。
可能性はかなり低いとは思いますが、全ての業者がちゃんと対応できる訳ではないことも念頭に入れておくべきでしょう。
定借契約の説明義務と終了通知義務
定期借家契約では、契約の際に「期間の定めのある賃貸借契約」である旨を記載した書面を借主に交付して説明しなければなりません。
これを怠ると定期借家契約の効力が無くなり、借主の権利が強い普通借家契約とみなされてしまうので要注意です。
また、契約期間が1年以上の定期借家契約の場合、契約終了の1年前~6ヶ月前の間に「契約が満了します」という旨の通知を出さなければなりません。
もし満了通知を出すのを忘れ、契約満了の6ヶ月前を過ぎてしまった場合は、満了通知の提出から6ヶ月経過してからでなければ契約満了を借主に対抗できなくなる(借主が「まだ借りてます!」と言っても貸主は否定できない)ので、これも注意が必要です。
定期借家契約を使うべき場合は?
通常の住宅の賃貸借においてはあまり定期借家契約を使用することはありません。
ですが、定期借家契約は大家にとってメリットが大きいので、適切な使いどころを知っておいて決して損はないですよ。
物件の建替えや解体が決まっている場合
物件の建替えや解体が決まっている場合は、定期借家契約で募集することが必須です。
普通借家契約の場合は借主の権利が強いため、借主が建物の退去・明け渡しを拒否して住み続け、結果として建物の解体が遅れてしまったり、明け渡しに金銭を求められたりするトラブルの懸念があります。
そんな最悪のリスクを避けるために、多少条件を緩くしてでも定期借家契約で客付けを行うべきです。
悪質な入居者をとにかく避けたい場合
防音性の低いアパートやシェアハウスなど、素行の悪い入居者が他の入居者や客付けに悪影響を及ぼしかねない物件の場合、定期借家契約を基本にするのも一つの手です。
定期借家契約であれば、悪質な入居者に長々と居座られる状況を回避できる可能性が上がります。
「普通の入居者とは基本的に再契約する」という意向をあらかじめ募集段階から伝えていれば、客付けにもさほど影響はないでしょう。
BtoBで賃貸借する場合
オフィスビルの賃貸借や店舗テナントの賃貸借といったBtoBの取引の場合は、普通借家契約よりも定期借家契約の方が一般的になってきています。
もしもあなたがオフィスビルや商業ビルを保有している場合は、定借前提で募集するようにしましょう。
ビジネスは切った張ったの交渉の世界なので、通常の住宅の賃貸借を行う不動産投資とはまた次元が異なる世界です。大家は定借じゃないとリスクテイク過剰で危険です。
(僕は以前不動産デベロッパーで働いていたので、BtoBの事情には少し精通してます)
定借をうまく使って低リスクの投資を
以上、定期借家契約のメリット・デメリットを解説しました。
定期借家契約はまだまだ一般の不動産投資の世界ではマイナーな存在ですが、これから市場の理解が深まるにつれ、少しずつ契約の割合も増えていくでしょう。
大家にとって、定期借家契約は賃貸における各種リスクを軽減できる良い手段の一つです。
ぜひ、有効に使ってみてくださいね。
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